のこと、

終わる夏

波打ち際をもつれて歩くふたりの足を波が洗うのを、遠くから眺めている。

足の砂を払い立ち去る私には、アスファルトの道は固く確かに感じる。

腕にまとわりつく潮風が私を海から遠のかせる。

はやく風呂に入りたい。風呂屋はどこだ。

片腕を抑え、ニヤつく私が歩いている。

そうして夏は終わる。

7月

泣く子をあやす母親の声が夕暮れに聞こえて、煩さと煩わしさとを私から遠ざけている。

通りかかる知らない子供が、私にあめをくれる。

「おいちゃんもう泣くのやめるよ、」

そう言う間もなく、知った子供は父親に手を引かれ、ちらちらと後ろを気にしながら去っていく。

しようがなく、眼についた野良猫に独り言を言う。

大凡、往々にして、そんな毎日である。

つまり、夏の夕暮れと猫はよい。酒とつまみがあるとなおよい。

外で飲むと気持ちがよい。

カレーライス

大きなビルの端に、蔦の絡まる小さな家があった。

かつてカレー屋であったその小さな家の入口には衝立がたてられ、手入れされる事のない木は路上に出ない様に縄で敷地内に引き戻されている。

その大きなビルも小さな家も壊され、さらに大きなビルができる。

さらに大きなビルを建てる者は、大きなビルを壊す為に買い、その小さな家を壊す為に買おうとした。

小さな家の主は、きっと彼がカレー屋を営み始めたのであろうときの年齢と同じくらいの年齢の女と、その小さな家でカレー屋を始めるのだと言った。

彼は老人ホームで女とカレー屋を営む夢を見て、僕はカレー屋であった建物が壊されていくのを眺めている。

ふたごの様に

ふたりはふたごの様にお互いを必要として、また必要としていない。

河口から海へ出て、溺れることのない遠浅の海を泳ぐ。

どこへ行く訳でもなく、そこに居続ける訳でもなく。

魚の影を横目に、美しい貝殻を拾い集める。

遠くまで行く船に手を振って、また貝殻を拾い集める。

ふたりはふたごの様にお互いを必要として、また必要としていない。